退職時のマナーと
手続き

現在の職場を退職する場合、今後の転職活動を円滑に進めるためにも、できるだけ円満退社につなげたいものです。しかし、退職時にどんなやり取りが行われ、いつまでに何をすればよいのか、人に聞くわけにもいかず不安な人もいるでしょう。特に、退職に伴い発生する公的な手続きなど、何があって、どうしたらよいのか、わからない人も多いのではないでしょうか。まずは、退職までの流れを押さえ、退職後に必要となってくる公的な手続きなどもしっかり把握した上で、マナーを守りながら確実にことを進めていきましょう。

退職までの流れ

2カ月前

①退職の意思表示
②退職日の調整・決定

1カ月前

①退職届の提出
②業務の引き継ぎ

2週間前

①取引先(社外)への挨拶まわり

退職日

①社内への挨拶
②貸与品の返却・退職書類の受け取り

退職後

①公的な手続き

法律上でいうと、申し出から2週間での退職が認められますが、余裕を持って1~2カ月前には退職の申し出をしましょう。人員補充にも時間が掛かりますし、業務の引き継ぎに支障が出るなどの問題が起きやすいためです。
上記の流れが一般的ですが、現在勤めている企業の就業規則で退職に関する項目を事前に確認しておくことも忘れずに。

STEP1退職の意思表示/退職日の調整・決定(2カ月前~)

退職の意思が固まったら、「直属の上司」に退職を切り出しましょう。ここにも、いつくか注意すべきポイントがあるので押さえておきましょう。

○繁忙期は避ける(業務に差し支えるため)
○意思表示はまず直属の上司にする
 (理解を得て、スムーズに進めるため)
○転職の意思を安易に口にしない
 (良くも悪くも周囲に影響を与えるため)
○退職理由に不満をあげない
 (個人的な事情としておくのが良いでしょう)
○転職先を明らかにしない
 (転職先が決まっていても、明かす必要はありません)

転職は家族の生活にも関わる重要な問題です。協力してもらえる環境を作るためにも、しっかり相談して理解を得てから進めていきましょう。上司に退職の意思を伝えた時に、強い引き留めにあうこともあるでしょう。退職交渉を始める前に、「希望する退職日」「最終出社日」を自ら設定して提示できるよう、退職の意思を確固たるものにして臨む必要があるでしょう。

退職日の相談は、一方的に自分の希望を伝えるのではなく、会社側の都合も考慮する姿勢が大切です。周囲への配慮を忘れずに、仕事の引き継ぎに要する時間、転職先への入社日を考えながら決めましょう。

同僚を思い心情的になるのもわかりますが、そうなると事は一向に進みません。周囲のことを思えばこそ、引き継ぎに関して、業務マニュアルを作成したり、ノウハウを伝えていくなど、転職の意思が固まった時点で準備をしていきましょう。そうすれば、引き継ぎに要する時間も明確にして話し合いを進めることができます。

STEP2退職届の提出/仕事の引き継ぎ(1カ月前~)

【退職届の提出】

退職時の手続きの一つとして、退職届の提出があります。退職することが確定したのち、退職を会社に対して届け出るための書類です。会社指定のフォーマットがある場合や提出先が異なることもありますが、一般的に基本的な書式に従い、直属の上司に提出するようにしましょう。就業規則に退職の手続きに関して明記されていますので、必ず確認するようにしましょう。

「退職願」というものもあります。退職を会社に願い出るための書類ですが、必ずしも書面にして提出しなければならないというわけではなく、口頭で伝えるだけでも構いません。いきなり退職願を出すのは、早急過ぎる行動であり、マナーに欠けます。まずは、直属の上司に退職の意思を伝えてからにしましょう。会社によっては正式に退職願を要求されることもあるので、規則に従った対応をしましょう。

◇退職願・退職届の書き方

〈用意するもの〉
  • □白の便箋(B5が一般的。A4も可。
     罫線入りor無しでも可)
  • □白の封筒(無地。B5用紙には「長形4号」、
     A4用紙には「長形3号」)
  • □黒ボールペンor万年筆

①冒頭行

中央よりやや上に「退職願」または「退職届」と書く

②文の導入

本文一行目の一番下に「私儀」もしくは「私事」と記入し改行

③退職理由

自己都合退職の場合、詳細を書く必要はないので「一身上の都合により」と記入。
会社都合退職の場合でも、会社から退職届の提出を求められることもあります。その場合、「退職勧奨に伴い」「部署縮小のため」など具体的な理由を記入しましょう。失業保険を受け取るタイミングや金額、受給期間などに影響することがありますので、間違っても「一身上の都合」と書いてはいけません

④退職日付

退職願は退職を希望する年月日、退職届は会社と合意した年月日。年の表記は西暦・元号どちらでも可

⑤文末の表現

退職願は「退職いたしたく~申し上げます」と願いでる形で。退職届は「退職いたします」と宣言する

⑥届出年月日

実際に書類を提出する年月日を記入。年の表記は西暦・元号どちらでも可

⑦所属と氏名

行の下方に記入。正式な所属部署名、名前はフルネームで記入し、末尾に捺印する

⑧宛名

会社名も正式名称を記入。
代表取締役(社長)を宛先にし、役名とフルネームを自分の名前より上方に記入。敬称は「殿」か「様」

※横書きの場合も、記入内容は同様です。縦書きとの違いは、まず日付・宛名・自分の名前が本文より先くることと、そして文末に「以上」が付くことです。

◇退職願・退職届を入れる封筒の書き方

・表に「退職願」または「退職届」とだけ中央に記入
・裏面の左下に、所属部署と氏名を記入
・手渡しであれば封をしても、しなくても可
封をする場合は、封入口の中央に「〆」を記入

◇退職願・退職届の封筒への入れ方

用紙の記入面を上にし、まず下の3分の1を折り返し、次に上3分の1を覆い被せるように折り返します。左周りに90度回転し、封筒(裏側を上)へ慎重に入れます。ずれないよう、折り目をきっちり付けましょう。
提出するまでクリアファイルに入れて、折り曲げたり、汚すことのないよう気を付けましょう。

【仕事の引き継ぎ】

退職届が受理されたら、引き継ぎ作業に取り掛かりましょう。後任者がすぐに決まるとは限らないので、誰が担当することになっても問題なく業務を遂行できるよう、資料を作成しておきましょう。自分が携わってきた仕事の段取りや進行状況、営業職の場合は、顧客リストに担当者の性格ややり取りの仕方などといった情報まで書いておくと良いでしょう。また、関係書類などの所在も明記しておきましょう。

STEP3取引先(社外)への挨拶まわり(1週間前~)

後任者が決まっている場合は必要に応じて同行してもらい、取引先に紹介します。自分が辞めた後も業務が滞りなく進むことを説明し、相手にいらぬ心配を掛けないこともマナーです。取引先で退職理由を聞かれても、具体的な理由は言わず、「家庭の事情」などにとどめるほうが好ましいでしょう。

STEP4社内への挨拶/貸与品の返却・退職書類の受け取り(退職日)

最終出社日は社内への挨拶まわりや、会社から貸与された備品の返却、退職後に必要となる書類の受け取り、デスク周りやロッカーの清掃など、意外と対応事項が発生するもの。慌てることがないように、あらかじめ確認しておきましょう。

〈退職時に会社から
受け取る書類〉
  • □雇用保険被保険者証
  • □年金手帳
  • □源泉徴収票※
  • □離職票※
    (転職先が決まっている場合は必要なし)

※退職後の発行となるもの。自宅に郵送して もらえるようお願いしておきましょう。

〈退職時に会社へ返却するもの〉
  • □健康保険被保険者証
  • □身分証明書(社員証やIDカードなど)、社章
  • □通勤定期券(原則として退職日までに清算し、返却)
  • □制服や作業着
     (貸与の場合、クリーニングをして返却)、印鑑など
  • □名刺(仕事を通じて受け取った名刺も
     原則として返却が必要。
     名刺ファイルのコピー、情報の持ち出しは厳禁)
  • □貸与された文具、備品、書籍、PCなど
     (私用のPCを使用していた場合は、データを消去すること)
  • □業務用の全ての関係書類

STEP5公的な手続き(退職後)

退職してから転職活動をする人は、公的な手続きが必要となってきます。会社を退職すると、健康保険や厚生年金保険の被保険者資格を喪失することになるからです。これらの加入手続きは、退職後に退職者自身で行う必要があります。具体的な手続きは下記の通りです。

失業保険の給付手続き

失業保険の給付
提出期間 離職票の交付後即
書類提出先 居住地を管轄するハローワーク
必要なもの □雇用保険被保険者証
□離職票1、2
□身分証明書(運転免許証、
 マイナンバーカードなど)
□印鑑
□写真2枚
 (直近3カ月以内、縦3㎝×横2.5㎝)
□求職申込書
□本人名義の普通預金通帳

失業給付金は、ハローワークに求職の申請をした上、規定の条件を満たさないと受給することはできません。その条件とは、「失業状態であること」「退職日以前の2年間に雇用保険加入期間が通算12カ月以上あること」「ハローワークに求職の申し込みをしていること」です。失業保険の給付額は、退職理由(自己都合退職or会社都合退職)の他、退職前6カ月間の賃金によって異なります。

【健康保険の変更手続き】

退職すると勤務先で加入していた健康保険の被保険者資格はなくなります。退職後は、以下3つより選択し加入の手続きを取りましょう。いずれの場合も医療費の一部負担金は3割となりますが、それぞれ手続き方法・場所・必要書類が異なってくるので注意しましょう。

①任意継続被保険者制度を利用
提出期間 退職から20日以内
書類提出先 加入していた健康保険組合or
居住地の社会保険事務所(郵送対応可)
必要なもの □健康保険任意継続
 被保険者資格取得申請書
□住民票
□1カ月分の保険料
□印鑑

①は、退職後も在職中に加入していた健康保険の被保険者資格を継続できるものです。任意継続被保険者になるためには「健康保険の被保険者期間が退職日までに継続して2カ月以上あること」「2年間を限度として加入すること」などの条件があります。手続きを行う場所は、それまでに加入していた健康保険により異なり、組合管掌健康保険に加入していた人であれば健康保険組合事務所、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入していた人であれば居住地を管轄する全国健康保険協会となります。健康保険証に保険者の名称が記載されているので確認しましょう。

②国民健康保険に加入
提出期間 退職してから14日以内
書類提出先 居住地の市区町村役所の
国民健康保険窓口
必要なもの □健康保険資格喪失証明書
□各市町村で定められた届出書
□身分証明書(運転免許証、
 マイナンバーカードなど)
□印鑑

②は各市区町村が運営するものです。保険料は、前年の所得、世帯の資産、家族人数などを基本にして決まり、算出方法は自治体により異なります。手続きの際の必要書類や納付方法も自治体により異なることがあるので、住んでいる市区町村の国民健康保険窓口に問い合わせてみましょう。

③家族の扶養に入る
提出期間 退職後すぐ
書類提出先 家族の勤務先
必要なもの □世帯全員の住民票
 (被保険者と別姓の場合)
□源泉徴収票
□退職証明書または離職票のコピー
□失業保険や年金を受給している
 場合は、受領金額のわかるコピー

③は「主として被保険者に生計を維持されている3親等以内の親族であり、年収130万円未満であること」などの条件を満たしていれば加入できます。保険組合によっては、認定について独自の要件や添付書類の提出を設けていることもあるので確認しましょう。

【年金の種別変更手続き】

20歳~60歳までの国民は、国民年金の被保険者になります。国民年金の被保険者には3種類(下記記載)あります。在職中は厚生年金に加入し「第2号被保険者」として保険料は給与から天引きされることで納めていました。退職したら国民年金の「第1号被保険者」または「第3号被保険者」の種別変更手続きを行い、自分で保険料を納めていくことになります。また、第2号被保険者の退職にともない、配偶者も第1号被保険者となるため、本人同様に種別変更の手続きを行い、保険料を納める必要が出てきますので注意しましょう。

国民年金の被保険者の種別

第1号被保険者:国民年金のみに加入している人。自営業者、農業従事者、学生、無職の人とその配偶者など
第2号被保険者:国民年金に加え、厚生年金や共済組合に加入している人。会社員や公務員など
第3号被保険者:第2号被保険者に扶養されている、年収130万円未満の配偶者。会社員の妻など

第1号被保険者への変更
提出期間 退職から14日以内
書類提出先 各市区町村役所・役場の国民年金窓口
必要なもの □年金手帳
□離職票または退職証明書
□身分証明書
 (運転免許証、マイナンバーなど)
□印鑑
 
 
第3号被保険者への変更
提出期間 退職後すぐ
書類提出先 家族の勤務先
必要なもの □国民年金第3号被保険者該当届
□世帯全員の住民票
 (被保険者と別姓の場合)
□源泉徴収票
□退職証明書または離職票のコピー
□失業保険や年金を受給している場合は、
 受領金額がわかるもののコピー

【住民税の支払い手続き】

住民税は1月~12月までの1年間の所得に対して課された税額を、翌年6月から翌々年5月までに「後払い」で納める仕組みになっています。在職中は給与天引きによって納めていた住民税も、退職後は自分で納めなければなりません。退職時期によって支払い方法が異なるので注意しましょう。

①6~12月に退職した場合

退職月分の住民税は天引きされますが、以降分は自分で納める(普通徴収)ことになります。退職する企業で、普通徴収への切り替え手続きを行ってもらいましょう。納付方法は、一括か分割で支払うかを選択できます。一括の場合は、最終月の給与や退職金から納税額を支払うこともできるので、会社に相談してみましょう。分割の場合は、後日役所から送られてくる納税通知書に従い自分で支払いましょう。

②1~5月に退職した場合

前々年の住民税(5月までの分)を、退職時に一括で支払います(天引きされる形)。なお、退職月の給与や退職金が、一括で支払うことになる納税額を下回る場合は、後日役所から送られてくる納税通知書に従い自分で支払いましょう。

【所得税の手続き】

所得税はあらかじめ1年の総収入を想定し、それを月割にして源泉徴収されています。退職後1カ月以上の失業期間がある場合は、所得税を多く納めていることになりますので、余分に支払った所得税の還付を受けることができます。

①年内に再就職した場合

再就職先の会社で年末調整を行います。前会社から退職時に受け取った源泉徴収票と、各種控除証明書を提出して手続きしてもらいましょう。

②年内に再就職しなかった場合

自分で確定申告を行いましょう。その際には、確定申告書とともに前会社から退職時に受け取った源泉徴収票と、各種控除証明書、印鑑を持って手続きします。

退職に際しては、やるべきことが多岐に渡り、気を揉むことも多いでしょう。手続きが面倒だな…と思うかもしれませんが、事前に必要となることを把握しておくだけでも安心できます。事前準備をした上で、一つひとつ整理しながら、退職の手続きを進めていきましょう。